2011年12月27日火曜日

Q102 父がマッサージに行ったときのことです

Question: 102
*初めて質問をさせていただきます。
私の父親の話で恐縮です。父は腰痛持ちです。先日家族でスーパーへショッピングに行った際、マッサージ屋さんがあったので、何気なしに入ったそうです。腰が痛いからほぐしてもらいたいだけだったのでしょう。しかし、施術をしてくれた先生によれば、父の腰痛の原因は精神的なところから来ているので、一度精神病院へ行った方が良いとのことでした。

その言葉に父はひどくショックを受けていました。父は定年後、趣味もなく、人付き合いも苦手なせいか、定年後元気もなく、時に自分の存在を責めているように感じることさえあります。そんな人間に対し、精神病院へ行けと、言ったのです。父は、どうやら自分はおかしい人間に見られたと感じたようです。

私はこのことを聞いて、施術をした人間に対し、殴り殺しに行こうと思った次第です。この施術をした者へ、怒りの言葉を一つひとつ並べたいのですが、震えて言葉になりません。言葉不足で大変申し訳ありません。

コンラッド先生はこの施術者に対し、どうお感じですか?


Answer: 102
大変腹立たしい問題です。
同時に,身体と心に関係した職業に就く人達全般に関わる重大な問題です。
身体に触る人間が,簡単に心の問題に踏み込んではいけないのです。お父さまの問題に対してお答えする前に,身体の分野が「心」にどのように接するべきか,ということと,現状はどうであるか,ということについて書かせてください。

はじめに,言葉を定義しておきましょう。文中では,施術家という言葉を主に使っていますが,治療家・教師・インストラクータ・整体師という言葉と同義で,「何らかの効果を狙って手技を提供する側(A)」です。同様に,クライアントという言葉も,患者・生徒・お客さん・という言葉とここでは同じ意味で,「何らかの効果を狙って,手技を提供される側(B)」のことです。また施術・治療・セッション・レッスン等も同義で「何らかの効果を狙った手技が行われる場・空間」のことを指す事とします。専門的には提供する側と提供される側とは分ける事はできず,一緒になって作るもの,という言い方をしますが,ここでは分けて考えます。Aが施し手,Bが受け手です。Aー>Bです。

さて,ハーモニー体操に限らず,マッサージでも整体でも,”身体にアプローチするメソッド”においては,クライアントは,施術をする者に対して自分の身体を"委ねる”ことを求められます。委ねるとは,簡単に言えば,リラックスすることです。
緊張して張りつめた状態では,狙った効果が出ないので,施術をする者(A)は,患者(B)に対して,身体をリラックスすることを求めるのです。

直接的には,「リラックスして下さ〜い」「力を抜いておいて下さいね〜」等と声をかけますが,間接的には,お香を焚く,音楽をかける,照明を落とす等を使います。いずれにせよ,クライアントがリラックスしていて効果が出やすい状態というのは,どういう状況なのか,という事を理解する必要があります。

それは,上下関係・権力構造の中にいるということです。リラックスするということは,一般的には防御を解くという事ですから,無防備な状態なのです(武道の達人等の特殊な人達はここでは除きます)。施術空間以外で,この様な状況は日常どういう場面でしょうか。風呂に入ったり寝床に入ったりするような,非常にプライベートな場面に限られる事が分かるでしょう。治療関係,施術関係,ハーモニー体操でもヨガでも,何と呼ぶにせよ,いずれにしても,そういう状態です。意識的な防衛が働かず,操作されやすい状態という意味では,非常に危険な状況であると言えるでしょう。このような状態で,身体に触れられるわけですから,当然受け手の気持ちはゆれるわけです。精神的に依存しやすくもなるのです。

まずこの上下関係・権力構造に無自覚な者が多すぎます。

次に,ほとんどのマッサージ師や整体師やボディワーカーは臨床心理学的なトレーニングを一切受けていませんから(僕も受けていません),平気で相手の心の問題に踏み込んでいきます。具体的には,人生相談や悩み相談を受けてしまいます。僕の知る範囲では,臨床心理士等,しっかりとした訓練を受けた心の領域を扱う人達(カウンセラー等)は,相談を受けながら,相手の身体に触れる人はいません(数ヶ月で取れるような資格では,そこまでの教育が行き届かないでしょうから,この限りではありません)。相談に乗りながら相手の身体に触れるカウンセラーなど,即刻職業失格ですが,身体の分野ではそれが普通です。

アロマを焚いて少し暗めの部屋でムード音楽を流しながら体に触りつつ,プラベートな話を聞き出したり人生相談をする。この状況の中では,患者の中に依存心が生まれてもおかしくありません。施術関係の持つ構造と,心の働きというものに対して無知で無自覚な者が多いのです。

整体やマッサージだけでなく,ハーモニー体操のような教室運営ビジネス(体操・ヨガなど)の分野では,「クライアント(患者,生徒)にストーカーされて困っている」という話をよく聞きます。しかし,そもそもストーカーと呼ばれるような精神的な状態が生まれやすい構造である,ということに自覚的な人はあまりいません。

そういうことを言っている施術家や教師・インストラクターに対して強く言っておきたいのですが,それは,あなたの対応がクライアントをストーカーにさせたのです。もちろん,ストーカーされている施術家やインストラクターは十中八九,「聞き出してなどいない。相手が勝手に話してきたのだ」と言います。あなたがどう思っていようが,クライアントが話したのなら,それを”聞き出した”というのです。そのような話をさせないように丁寧に避ける,それは職業としてやっていく上では身につけていかなければならない技術なのです。

最後に,あまり問題にされていないけれでも重大だと思う問題について,書きます。インストラクターや施術家になろうとする20代・30代の女性についてです。あくまで僕の実感に過ぎませんが,最近,気軽に相手の身体に触れる女性がとても多いです。普段の会話や,飲み会の席などで,手で軽くポンと押す様にしてみたり,通りすがりに軽くよけるようにして触れてみたりと,物を手渡す時に指が触れたり,というように。

このような習慣を持っている人達が,身体の分野に突入していくわけです。一般的なヤリトリなら個人の勝手ですが,身体の分野の職業に就こうとする人は,自分の振る舞いについてよくよく自覚的でいてほしいと思います。また,身体の分野の職業につく人のセミナーや学校でも,この「心の問題に踏み込むべきではない」という教育を徹底してほしいと思います。今は,即席施術家(インストラクター)ブームですから,今後一層この種の問題は増えてくるはずですから。というか,こんな最低限のこと言わせんなよ。

さて,長々書いてきましたが,以上のことは,身体を扱う分野に関しての僕の現状認識です。これを踏まえて,質問者の方のお父さまの問題に戻りましょう。

お話の通りだとすれば,その施術家のしたことは犯罪です。質問者の方が怒るのも当然だと思いますし,僕も日頃の思いがあわさって,はらわたが煮えくり返る思いです。しかし,くどくどと述べましたように,これが(心に関しての)身体の分野のお粗末極まりない現状なのです。

僕なりにブログやHPを通じて,あるいは,講習会やハーモニー体操のトレーニングコースを通じて,この種の問題については,関わる人達の理解を深めていけるように活動していきたいと思っています。身体に関わる者として申し訳なく思っています。

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